前日の大鍋

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さて,私どものような履き古しのごとき制作団体でも,
たまさか『撮影で一番大切にしていることは何ですか?』
などという質問を受け,生意気にも答えたりいたします。
『チームワークですかね。』
『クリエイティブな発想を十分に発揮できるようなフレキシブルな現場作りかな。ほら,ボクっていい加減な人じゃないですか(笑)』
『作品のクオリティをアップするためのモチベーションのイノベーションをインベージョンしてですね…』
など,先方の望むようなクリエイティブさん風回答を用意しておくべきなのでしょうが,
これには常に答えが決まっており,それは
『とにかく早く帰ること』
というものです。

撮影が始まったら,とにかく早く帰りたい。
人々が早く仕事を切り上げたいときのパワーやチームワークたるや,
それはもうすごいものです。
そんなわけですから,くつしたはロケ現場に入った瞬間から,いえ,
香盤を切り始めた瞬間から,
まるで友達のいない高校生の修学旅行のように,
帰るまでの時間をカウントダウンしているのです。

しかしそうやって,
3日かかるロケを2日に縮めようが,回避できないものがございます。
食事です。
うんこをする場所の確保,というのもかなり大切ですが,
上から入れなければ下からは出ないので,
やはり食事のほうが大切です。

うんこより食事。

大事なことなので,行あけして再度記しておきました。

ところで当方は,食事はできるだけ炊き出し,つまり自前で用意することを心がけております。
安いお弁当を探し人数分用意する苦労を繰り返した後に炊き出しをしてみた結果,
うまく買いだしをすることでその3割から,うまくいけば5割程度の経費削減となり,えらく驚いたというのがそのきっかけでした。

しかし,そこは零細もいいところの当方ですから,撮影のころ合いを見て調理をはじめ,
ひと段落ついたころに『ごはんができたわよう』と声をかけてくれるような環境などは夢のまた夢。
そこで,くつした企画では主に『前日仕込み』方式で炊き出しを行っております。
この方式の特徴といたしましては,
1)撮影前日に,当日すべての炊き出しを仕込んでしまう。
2)なべ一つでそのままサーブできるようなメニューにする
3)監督を役割とする人間が作る
という点が挙げられます。
1)については,当日温めるだけでよい,という手軽さがありがたいですし,
2)に関しては,かさばらないのが何よりであり,
3)に至っては,『炊き出しがないと,スタッフやキャストが参加してくれないのではないかという恐怖から逃れるために行う』
『撮影前日の漠然とした不安を紛らわせるために行う』などの心のバランス調整の役割すら持ってくれるのです。
すてき。

とまれ,
この前日仕込み型炊き出し,当日の手間の削減に大いに役立つものの,幾つかの留意点がございます。
それは,
1)翌日必ず火入れをすること
2)その際,完全にさめる時間を逆算して火入れをすること
の2点です。
傷まないようにするための工夫,と言うわけです。

『内輪の『楽しい思い出』をたれながす』
『望まれもしない撮影の『裏側』を露出する』
などという無益なことをするくらいなら,
普段世の中の役に立っていないわたくしどもくつした企画は,
少しでも世間様の役に立ちたい。
お天道さまの下を,こっそりとでもいいから歩きたい。
早く人間になりたい。

そんな道徳的な臆病さから,この『タキダス』では,
くつした企画がこれまで用意してまいりました炊き出しについての記録をつけてみようと思います。