集中暖房などという概念を知らなかったころ。
暖房はもちろん暖房でしたが,調理器具でもありました。
ストーブというやつですね。
塩ジャケ(このばあい,鮭ではなくジャケのほうが正しい気がします)を平らげたあと,
その骨をのっけてカリカリに焼いて食べたり,
みかんをのっけて皮をこんがり焦がしてから食べたり(道を踏み外した焼き芋のような味がしました),
それからそうそう,酒かすをのっけて表面を焼いたり。
お酒の癖が抜けて,代わりに濃厚なコクと香ばしさが口に広がって…
などということを,石油暖房機のフィルタをしぶしぶ掃除しながら思い出したら,
いてもたってもいられなくなり,
買っちゃいました。酒かす。
ベージュがかった白で平べったくなっている,いわゆる板粕というやつです。
焼いて食べましたが,それもほんの少しでもう十分。
思い出食欲が満たされた後には,大量の酒かすが残ったのでした。
どうしよう。
えっちな本を買ってきて堪能した後の中学生みたいな気持になりましたが,
すぐに気を取り直し,これを炊き出しに利用してしまおう,と思うに至りました。
ここで少し道をそれますが,
『野外料理』というとまず出てくるのがカレーと豚汁。
カレーはとにかく,豚汁は然るや否や?というのが,素人炊き出しの疑問です。
実は,結構な割合で積極的に好きではない,という方が多い印象なのです。
個人的経験からすると,原因は『みそ仕立て』というところにあるようでした。
つまり,手数の少ない現場では,どうしても知らないうちに沸騰させてしまうことがしばしばのため,
みその妙な酸っぱ味が出てきてしまうというようなことです。
仕上げにごま油をたらす,といったごまかし策でこれまでしのいできましたが,
それでも,特に女性の方には食い付きが悪い印象。
元の筋にもどりますが,
そこでふと,『より濃厚につくって,酒かすをくわえてやれば何とかなるのではないか?』
と思ったというわけなのです。
『濃厚豚粕汁』 10~15人分
・豚バラ塊 800グラム~1キロ
(安売り量販店などにいくと,グラム80円を切ることもあります。)
・にんじん 5~6本
(大きめのものが良いと思います)
・大根 一本
(こちらも大きめのもので。)
・エリンギ 2パック
(相場はひとパック198円と言ったところ。裂いて使うとかさが増えるし食べ応えもあるのでお勧めです。)
(・ながねぎ 1束)
(余裕があれば,くらいでよいかと思います。)
・酒かす 300グラム
(お漬物を漬ける時期には少し安くなりますよね。)
・みそ 適宜(一袋 500グラム)
(経験的底値は98円!びっくり!)
・だしのもと 一袋
・牛乳 小ひとパック
・しょうゆ
・砂糖
<前日の作り方>
・豚バラ肉は,大きめに切り分けていきます。目安は『さっと焼いて食べるには苦労しそうなくらいの厚さ』です。
・にんじんは皮をむき,乱切りにします。皮は,太めの千切りにしておきます。
・同じく大根も皮をむき,中身は乱切りに,皮は太めの千切りにしておきます。
・エリンギは手で裂いておきます。
・熱したお鍋にサラダ油を少し引き,バラ肉を炒めます。
・バラ肉の脂身が透き通って脂が出始めたら,人参と大根を入れて油を絡めます。
・根菜類に火が通り始めたら,エリンギを投入。エリンギに火が通って水分を含み始めたら,ひたひたのお水とだしのもとを適宜投入します。
・あくをとりながら40分くらい煮,人参がほっくり崩れるようになったら,火を止めます。
・ミキサーに酒かす・みそ・牛乳を投入し,かき混ぜます。ふわふわに混じりあったら,鍋に残らず注ぎ入れます。
・再び鍋に火をいれ,温めながらよく混ぜます。味見をして足りないようなら,ミキサーがけから何度か繰り返して調整します。
(思った以上にたくさん入れることになると思います)
・最後に,しょうゆをかくしあじていどにたらし,お砂糖も少し混ぜ込んで,沸騰前に火を止めてできあがり。
<当日の供し方>
・大きめの使い捨て食器にご飯を盛り,そこに粕汁をたっぷりかけて食べます。
・長ネギをひと束持って行って,その場で刻んで散らしても豪勢な気がします。
・一味を持って行くのもよいと思いました。
コンセプトは『ごはんにかけられる豚汁』。
しょうゆを隠し味に入れると,なぜか味に,ごはんにかけたくなる厚みが出ます。
粕と豚の脂やだしのおかげで,多少沸騰させてしまっても,濃厚さが失われないという利点がありました。
また,ミキサーで酒かすをかき回すと,ふわふわになって口触りが洋風になりました。
こうして,不純な炊き出しは無事にその真意を悟られることなく,好評を得ることができたのでした。
完全犯罪の成立。