台湾に行っておりました。
東部の山間にある,先住民族の村に逗留させていただき,さまざまな取材を行ってまいりました。
あまりにも濃密な情報量だったこの体験を端的に説明するのはかなり難しいのですが,
これらは時間をかけてくつした企画の作品群やプロジェクトに反映されていくことと思います。
改めまして,温かく迎えてくださったTruku族の皆さまをはじめ,すべての関係者の皆様に
深く感謝いたします。
そんな意義深い逗留の間に,たくさんの食べ物をごちそうになりました。
ハレの食べ物,そして何より興味深かった日常の食べ物。
食のことを記していくだけで相当な文章量になりますので,うんと割愛して,
今回は旅から戻ったら第一に再現しようと考えていた料理,こちらの再現レポートをさせていただきます。
炊き出しの記録,というコンセプトから少々外れてしまいますが,
ご容赦ください。
その食べ物と申しますのは,
Truku族のちょっとした集まりに御呼ばれした時にふるまわれたお惣菜のうちのひとつ。
どちらかというと日常の部類に属するのだと思います。
祖父の代から伝わるものだ,とその集まりの主は教えてくださいました。
材料は豚肉とじゃがいも,ニンジンに玉ねぎ。
それをしょうゆベースで甘辛く炒め煮にしたもの。
そう。まるきり肉じゃがです。
祖父の代に,日本人から教わった料理のようだ。主はそうも教えてくれました。
すこしばかり複雑な思いがいたしましたが,
しかしこの料理,どこか少し,いやかなり,変わっています。
自分たちの食生活や文化嗜好に合わせ,
肉じゃがが先住民族の村でむしろ独自の料理として変化していたというわけです。
違いはほんのちょっと。
しかしそれは,絶対に日本人が思い及びもしない『ちょっと』でした。
truku風肉じゃが 4から5人分
じゃがいも 中 5個
玉ねぎ 大 1個
にんじん 大 1本
豚バラ塊 200グラム (できれば皮付きのものを)
しょうゆ
お酒
クローブ 10から12粒
黒コショウ粒 20粒
ホールシナモン 2かけ分
<仕込み方>
・じゃがいもは皮をむいてやや小さめの乱切り,ニンジンもやや小さめの乱切り,
そして玉ねぎは繊維に沿ってざっくり6等分に切り分けます。
・豚バラ肉を薄くそぎ切りにします。豚小間よりは存在感のある厚さできると,それっぽい感じです。
・鍋を煙が出るまで熱し,油をしかずに豚バラ肉を入れて油を出します。
・油が出たところで野菜とスパイスとを入れ,油が回るまで軽く炒めます。
・お酒とお水を合わせて材料がひたひたになるまで水分を足し,あくをとりつつ中火よりも弱いくらいで煮ます。
・お酒が抜けたかな,位のところでお醤油を軽めに足し,アルミホイルなどでいい加減に落としぶた。弱火で煮ます。
・じゃがいもが柔らかくなったら味を見てしょうゆを適宜足し,さっと煮たたせて出来上がり。
記憶をもとに作ってみましたが,
かなり忠実な味がしました。
バラ肉は肉の色が濃く,脂部分がくっきりと分かれている上にサクサクとしてあぶらこくない感じでしたので,
ひょっとするとイノシシかだったのかもしれません。
甘味を用いない味付けですが,クローブとシナモンの香りのせいですっきり甘く感じられます。
また,スパイスのせいか,味に台湾というよりもどこか中近東の雰囲気がただよいます。
なんとも不思議な肉じゃがの子孫でございました。
しかし考えてみれば,オリジナルの肉じゃが自身も歴史の古いものではなく,
そもそもイギリス由来のものでございます。
肉じゃが。
流浪のメニューと言えるのかも知れません。